
生成AIという言葉を耳にすることが珍しくなくなった今、多くの企業がその活用方法を模索しています。業務効率化や自動化といった切り口が注目されがちですが、「AIを使ってどう考えるか」「人の思考をどう支援できるか」という視点から事業を展開している会社があります。千葉を拠点にAI研修事業を手掛ける 4DL Technologies株式会社です。
同社は「4DL-IE」という“問いをテーマにした生成AIチャットボット”を開発し、企業のAI活用を支援しています。本記事では、代表取締役・荒巻智隼さんに、中小企業におけるAI活用の可能性、そして今後の展望についても伺いました。
前職での経験が創業のきっかけに
荒巻さんは、前職の研修会社に在籍していた時期に、ChatGPTに出会ったと言います。
「当時は教材づくりやeラーニングの開発などを担当していました。研究開発という立場で、社内向けに新しいツールを試せる環境にあったんです。そのときChatGPTを研修に応用してみたら、想像以上に大きな効果があると実感しました。検証を進め、これは研修や教育のあり方を変える技術だと確信したんです」
この経験を経て、2023年3月に4DL Technologiesを創業。社名の「4DL」は 4th Dimensions Learning=四次元学習 の略で、「時間や空間を超えた新しい学びの場をつくりたい」という思いが込められています。
「問いを深める」AIチャットボット、4DL-IE
同社の代表的な取り組みが、生成AIチャットボット「4DL-IE」です。一般的なAI活用が「効率化」や「自動化」に偏るなか、IEは「問いを投げかけること」にフォーカスしています。
「ビジネスの現場では、企画や意思決定など“考える”場面が必ず出てきます。IEは単なる答えの提示ではなく、利用者と対話しながら思考を整理し、深めていくためのAIです。実際に体験いただいた方からは“熟練ディレクターと壁打ちしているようだ”という感想もいただいています」
開発の背景には、研修事業で培ったコンサルティングのノウハウが活かされています。現在は誰でも無料で利用可能ですが、その先の研修や伴走支援が同社のビジネスの主軸です。
4DLが提供するのは、単なるAIツールの使い方講座ではありません。特徴は「組織の目的に合わせたカスタマイズ研修」にあります。
「世の中には“AIを使いこなしましょう”という研修がたくさんあります。ただ、私たちが重視しているのは、企業ごとの経営課題や組織設計に即した研修を行うことです。御社の課題を聞き取り、実際に業務に落とし込める形で伴走します。場合によってはコンサルティングに近い形にもなります」
また、ChatGPTだけでなくGeminiやCopilotなど、プラットフォームに依存せず幅広く対応可能な点も強みです。

中小企業とAIの関係性
続いて、中小企業におけるAI活用について伺いました。荒巻さんは「中小企業にこそAIは必須」と語ります。
「経営者は意思決定が仕事ですが、1人で考えるのは限界があります。生成AIは“壁打ち相手”として非常に有効です。さらに、人手不足に悩む現場でも、省力化のツールとして役立ちます。AIが雑務を担えば、人間はお客様との対話や価値提供に集中できる。小規模だからこそAIの恩恵をダイレクトに受けやすいと思います」
生成AIの利用コストは人を雇うよりも圧倒的に低く、導入のハードルも下がっています。その点でも中小企業との相性は良いといいます。
4DLの研修は大手企業との取引も進みつつ、今後は中小企業への浸透を狙っています。その広げ方について尋ねると、「まずは体験」との答えが返ってきました。
「生成AIは“必要だから”ではなく、“気になるから”という関心で触れられることが多い技術です。ですから、まずはセミナーや4DL-IEを通じて性能を体感していただきたい。その後に研修や伴走支援へとつなげていきたいと考えています」
ただし課題もあります。AIはすでに多くのツールに組み込まれているため、「使っているつもりがないのに使っている」ケースも増えており、研修の必要性を理解してもらう工夫が求められています。
また、最近では「AI顧問」という言葉も聞かれるようになりました。AIを売るのではなく、企業ごとにカスタマイズした導入や活用を支援する存在です。
「生成AIは問いの立て方次第で答えが変わります。だからこそ、人に相談するのと同じように“どう聞くか”が重要です。私たちが伴走支援を行うのは、その部分をサポートするためです。研修とコンサルの中間のような立ち位置ですね」

「短期的には引き続き研修事業を強化し、生成AIのアップデートにキャッチアップしながら支援を広げていきます。長期的には、メタバースやXRを活用した“新しい学びの場”をつくりたいですね。学校教育に限らず、誰もが学び合い、教え合える環境をデザインしていきたいと思っています」。
AIの進化によって、教育や学習のあり方そのものが変わる未来。その中心に「問い」を置いた4DLの挑戦は、今後さらに注目を集めそうです。
荒巻さんのお話を通じて浮かび上がったのは、AIを「効率化の道具」としてではなく、「思考を広げる相棒」として位置づける姿勢です。中小企業にとっても、大企業にとっても、AIは単なるツールではなく、組織や人の可能性を広げる存在になりつつあります。変化の速い時代において、「問い」を軸に未来の学びを描く4DL Technologies。その挑戦は、企業のAI活用の新たなヒントを与えてくれます。