
ここ数年で売上規模を約4倍にまで伸ばし、急成長を遂げた株式会社アメニティジョイハウス。千葉県に拠点をおき投資用不動産の建築・販売を手がける同社の躍進の裏側には、目先の利益を追うのではなく、「四方よし」という経営理念と「あたらしい豊かさを描く」というスローガンを徹底する独自の経営哲学がありました。
代表取締役・田脇宗城さんへのインタビューから、持続的な成長を支えるブランド戦略、そして「人」と「組織」への誠実な向き合い方を紐解きます。
すべての判断基準は「誠実であるか」 ― 原点回帰のブランディング
投資用不動産を扱う業界は、ときに顧客からの不信感やモラルへの課題を指摘されることがあります。アメニティジョイハウスがブランド戦略に本格的に着手した背景にも、そうした業界全体の課題に対する強い思いがありました。
「この業界って、『不動産投資は怖い』『騙されるかもしれない』とか、そういうイメージが強くないですか。不動産投資は本来、すごく安定した良い資産形成の手法のはずなのに、もったいないなと、悔しい思いをずっと感じていました」
田脇さんは当時をそう振り返ります。堅実で安定した不動産投資の本質的な価値が、一部の不誠実な事業者のために歪められて伝わっている状況に、強い危機感を抱いていました。
「だからこそ、信用や信頼、安心感をどうお客様に伝えていくかを真剣に考えました。ただ、それを言葉で『私たちは誠実です』って言っても陳腐で胡散臭くなってしまう。だから、言葉にしなくても僕らの姿勢が伝わるような、本質的なブランドが必要だと思ったんです」
そこで掲げられたのが、近江商人の「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」をさらに発展させた独自の経営理念「四方よし」です。
「投資アパートのオーナーは専業大家ではなく、本業が異なる兼業大家の方がほとんどです。そのため、私たちが入居者管理や建物管理などのアパート経営を代行しています。つまりオーナー様のアパート経営における『三方よし』は、私たちにとっての『三方よし』と重なります。ならば2つの『三方よし』を合わせた『四方よし』の形こそ、私たちが掲げる経営理念に相応しいのだと思い至りました」
また、そこには自社に関わる「社員」とその家族、そしてビジネスを支える「協力会社」も含めた、すべてのステークホルダーの『三方よし=幸福』を追求するという強い意志が込められています。
この理念を、より顧客に伝わるメッセージとして落とし込んだのが、「あたらしい豊かさを描く」というスローガンでした。
「一番はやっぱり、心の豊かさ。もちろん、僕らの事業は資産活用がテーマだから、金銭的な豊かさも追求します。だけど、それだけを追い求めていく生き方・考え方って、すごく寂しい人生じゃないですか。僕らが本当に届けたいのは、物質的な豊かさの先にある『心の満足度』なんです。家族との時間が増えたり、将来への不安が和らいだりすること。それこそが『あたらしい豊かさ』だと信じています」
ブランディングによって理念や価値観が明確になったことで、全社員が共有する「ブレない経営軸」が生まれました。それは、ときに短期的な利益とは逆の判断を迫られる場面で、真価を発揮します。
「理念を掲げたことで、社長である僕自身もその言葉に縛られるようになったんです。安易に利益重視の選択をしそうになったとき、『いや、それは我々の理念と違うな』と立ち返ることができる。この軸があるからこそ、長期的な視点で経営判断ができる。それは社員も同じ。目の前のお客様に対して『誠実であるか』という一点で判断できるようになりました」

「売上を追わない」経営が、なぜ4倍の成長を生んだのか
驚くべきことに、田脇さんは「もう何年も前から、売上を追いかけるのはやめている」と断言します。その言葉を裏付けるように、同社では業界の常識とは一線を画す独自の生産体制を貫いています。
成長の鍵は、プロダクトアウトの徹底にあります。「本当にいいものをつくれば、必ずお客様に選んでもらえる」という哲学のもと、土地の仕入れから施工品質に至るまで、一切の妥協を許しません。
「私たちは、自社で建築まで手がける『作り手』の会社です。だからプロダクトには絶対の自信がある。売れるからといって、自分たちの基準に満たない土地を仕入れたり、品質を落としたりは絶対にしない。あくまで『良い』と信じるものにこだわり続ける。その姿勢が、結果としてお客様からの信頼と、アメニティジョイハウスというブランドの希少価値に繋がっているんだと思います」
その哲学を象徴するのが、「3月に暇な会社を目指す」いう逆転の発想です。建設業界では、決算期が集中する3月が一年で最も忙しい繁忙期。しかし、同社ではその繁忙期をあえて避け、年間を通じて生産量を平準化する「計画生産」を導入しています。
「3月は、職人さんの人件費も高騰し、現場は過重労働になりがちです。そんな状態で本当に良いものが作れるでしょうか。僕らは、無理な詰め込みで品質を落とすよりも、年間を通じて安定した品質とコストを維持することを選びました。あえて余裕を持たせることで、全体の生産性が上がるんです」

この「売上を追わない」戦略は、会社に3つの大きなメリットをもたらしました。
第一に、品質の安定。過重労働を防ぎ、職人が一棟一棟にじっくりと向き合える環境を確保します。第二に、コストの最適化。繁忙期を避けることで、人件費などのコストを抑制し、高品質ながらも適正な価格での提供を可能にします。そして第三に、協力会社との強固な信頼関係です。年間を通じて安定的に仕事を提供することで、「アメニティジョイハウスの仕事なら」と、腕の良い職人やパートナーから優先的に選ばれる存在になっています。
「今では、今期の受注は5月の段階で締め切り、それ以降は来期の契約としてお客様にお待ちいただくという体制です。売上目標ありきで現場を動かすのではなく、現場が最高のパフォーマンスを発揮できる体制を整える。その結果、顧客満足度が高まり、リピーターやご紹介が増えて、自然と会社が成長していくんです」
まさに「四方よし」を体現したこの好循環こそが、アメニティジョイハウスを数年で4倍の成長、現在の連結120億円規模へと押し上げた原動力なのです。
成長の源泉は「人」。リーダーの育成が鍵を握る
100人規模の組織へと成長した今、田脇さんが見据えるのは、会社の「次のステージ」です。そこでは「人」と「組織」のあり方が、これまで以上に重要になるといいます。
「会社の規模が大きくなると、私一人がすべての社員を見るのには限界があります。それぞれのチームを率いる上長が、自身の責任においてマネジメントするべき。僕自身の役割も、プレイヤーから組織全体をデザインするマネージャーへと変わっていく必要がある」
そのために不可欠なのが、リーダーの育成です。個人の営業スキルや技術力だけで昇進するのではなく、チームを育て、会社の理念を体現できる**「本物のマネジメント能力」**が求められます。
「会社はスタープレイヤーだけで成り立っているわけではない。彼らを支える多くのメンバーがいて、初めて組織は機能する。その一人ひとりの頑張りや成長にちゃんと目を配って、適材適所に配置して、ときには根気強く待ってあげる。それができるリーダーを育てないと、会社の成長はここで止まってしまうんです」
田脇さんは、社員とのコミュニケーションに圧倒的な時間を割きます。ランチや飲み会はもちろん、運動会や社員旅行といった社内イベントで時間を共有し、社員一人ひとりの声に耳を傾け、いろいろな話をします。それは、すべての社員を見てあげられないと言いながらも、可能な限り社員を「見たい」という覚悟の表れです。

「次世代のリーダーたちが、スキルはもちろん、経営の視点や、人を大切にする心を培ってくれるまで、その席を空けて待っているんです。ゆくゆくは、たくさんの社長や役員が生まれていけばいい」
語る言葉の奥には、会社の未来を託すに足る人材を育てていきたいという、強い意志が感じられました。
アメニティジョイハウスの成長の根源は、一貫して「四方よし」の理念を追求する誠実な姿勢にあります。その哲学は、単なるビジネス戦略にとどまらず、社員一人ひとりの幸福へと繋がっています。田脇さんは、インタビューの最後にこう語りました。
「自分が豊かになれば、子供や親兄弟、仲間も豊かにしたくなるじゃないですか。その豊かさがどんどん周りに広がっていく。一人で幸せなのは、やっぱり寂しいでしょう。だからこそ、僕らは関わるすべての人を幸せにできる会社でありたい。それが『四方よし』であり、僕らが描きたい『あたらしい豊かさ』の本質なんです」
目先の利益ではなく、関わる人すべての幸福を追求する。その揺るぎない姿勢こそが、結果として会社を成長させ、未来を切り拓く最大の力になっているのでしょう。